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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)569号 判決

控訴人

ゼネラル石油精製株式会社

右訴訟代理人

渡辺修

外五名

被控訴人

石田○○

被控訴人

山梨○

右両名訴訟代理人

中島通子

外二名

主文

原判決を取消す。

被控訴人らの控訴人に対する横浜地方裁判所川崎支部昭和四七年(ヨ)第一〇八号地位保全仮処分申請事件につき同裁判所が昭和四八年六月九日なした仮処分決定を取消す。

被控訴人らの右仮処分申請を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

〈前略〉

右当事者間に争いのないところおよび右認定するところによる本件就業規則中の休業に関する規定と退職(解雇)に関する規定との相互の関係から考えれば、同規則第七条第一項第二号は、傷病外の理由による従業員の欠勤が引続き一か月に達した場合に当該従業員を必要的に休職に付さなければならない趣旨ではなく、これを休職に付さない裁量が会社に許されるものと解されるから、控訴人が被控訴人らの欠勤について同規定を適用してこれを休職に付さなかつたからといつて、被控訴人らが主張するように就業規則適用の誤りをいうことはできない。

しかして、同規定による休職に付せられなかつた場合において、当該従業員に懲戒事由が存するときには右就業規則第一一条第一項第四号による懲戒解雇がなされうると解されることは被控訴人らのいうとおりであるところ、同規則同条同項第五号の規定に従う会社の都合による解雇(この場合、前出疎乙第一号証の一によれば、同規則同条第二項により一か月前の解雇予告がなされるか、または平均賃金一か月分の解雇予告手当の支払がなされることになる)もまた、それが解雇権の濫用等の違法をきたさない限りなしうるものと解するのが本件就業規則の合理的理解というべきである。

前示のごとく、本件就業規則第七条第一項第二号の適用につき休職に付さない裁量が会社に許されるものと解すべき以上、同規則第一一条第一項第一号の規定は、右第七条第一項第二号により休職となつた者が休職期間満了までに復職の命を受けなかつたときに解雇されることを定めたにすぎないものであつて、これらの規定の相互関係から考えても、右第七条第一項第二号の休職に関する規定が所定期間の欠勤により通常であれば解雇されるべき従業員について一定期間解雇を猶予するための制度を定めたものとは解されず、他にそのように解すべき根拠は見当らない。

原判決を引用した前示認定事実のほか、なお、〈証拠〉によれば、被控訴人石田は昭和四六年一月以前から病気欠勤や私用欠勤が多く、同年一月以降も勤怠状況が前示のとおりであつたから、控訴人は同年七月ころから再三にわたり同被控訴人に対し所属の課長係長をして口頭をもつて欠勤しないように注意をさせたが改まらなかつたので、同年一〇月二三日前示のとおり安全課長を通じ文書をもつて同被控訴人に注意を与えたこと、しかし、その後も同人は同年一一月九日私事の都合を理由に欠勤し、次いで同年秋に行われた沖繩返還協定批准阻止行動に参加して同年一一月一九日当局に逮捕されて勾留されるに至り、よつて同月二〇日以降長期欠勤を続けたこと、そのため控訴人としては同被控訴人がいつから出勤できるようになるか見込みが立たなかつたので、とりあえず代勤者をもつて同人の欠勤を補うことにしたが、代勤は他の者にかかる負担が大きく長期間は続けられなかつたため、代勤による措置をしばらく続けた後に他の部門所属の者に期間を限つて臨時応援させる措置をとつたこと、しかし、右の各措置は控訴人会社の業務の遂行としては変則的応急的なものであつたことが認められ、右疎乙第六号証および弁論の全趣旨によつて成立を認めうる疎乙第八号証によれば、被控訴人山梨の勤務状況は、同人が昭和四六年六月沖繩返還阻止街頭闘争行動に参加し同月一七日から同年七月九日までの間当局に逮捕勾留されて欠勤するまでは特に悪いとはいえなかつたが、右勾留を終えてはじめて出勤した同年七月一〇日、控訴人が事務部長名をもつて文書により同被控訴人に、右のようなことで逮捕勾留を受けて就労しない事態を二度と繰り返えさないように注意を与えたのに対し、同被控訴人は、右不就労に対する抗議は同人にしてではなく国家権力に対してなすべきであり、右の事態を二度と繰り返えすなと同人にいうのは、その思想信条への侵害であり、表現の自由を奪おうとするものであるなどと称して、右注意に抗議し、反省の態度を示すところがなかつたこと、その後同被控訴人は欠勤、遅刻をすることが従前より多くなり、更に同年秋の沖繩返還協定批准阻止行動に参加して同年一一月一四日当局に逮捕され勾留されるに至り、よつて同月一五日以降長期欠勤を続けたこと、そのため控訴人としては同被控訴人がいつから出勤できるようになるか見込みが立たなかつたので、被控訴人石田について前示したと同様、変則的応急措置をとつたことが認められる。そして、被控訴人らがいずれも右勾留のまま起訴されたことは、前示のとおり当事者間に争いがないところ、前掲諸証拠によれば、控訴人としてはその後も被控訴人両名につきいずれも正常勤務につきうる見とおしが立たないままに昭和四七年二月九日に及んだため、同月一〇日被控訴人両名に対し前示就業規則第一一条第一項第五号「会社の都合によるとき」の規定を適用して被控訴人両名を同月一二日付で解雇する旨の意思表示をするに至つたことが認められる。

以上判示の事実関係からすれば、控訴人の被控訴人らに対する本件解雇には相当の事由があるものということができて、解雇権の濫用をいうべき事実の疎明は十分でない。

また、被控訴人らは、本件解雇は不当労働行為であると主張するが、被控訴人らが労働組合活動を積極的に行つたため同人らを職場から排除しようとして控訴人があえて本件解雇を行つたとする被控訴人らの主張事実を認めるべき疎明は十分でないから、被控訴人らの右主張は採用できない。

よつて、控訴人の被控訴人らに対する本件解雇は有効であつて、被控訴人らが控訴人に対し雇用契約上の権利を有することを前提とする本件仮処分申請は、その余の点について判断するまでもなく理由がなく却下すべきである。

よつて、右と反対の結論を示した原判決は失当であるから、これを取消し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(安倍正三 中島一郎 桜井敏雄)

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